2000年3月

長崎地本三菱連帯・長船労組
最高裁が初判断「作業着への着替えも、労働時間」


 作業服の着替えを就業時間内に行ったとの理由で賃金カットされた全国一般長崎地本三菱連帯・長船労組は、三菱重工業を相手に賃金カット分の支払いを求めた訴訟で、最高裁第1小法廷は3月9日、組合側勝訴の福岡高裁判決を支持し、会社側の上告を棄却した。判決理由の中で遠藤光男裁判長は「労働時間に当たるかどうかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたかどうかで定まる」という初判断を示した
 長崎造船所では従業員に、始業前と終業後に作業服や保護具の着替えをするよう義務づけていた。1973年と85年、始業時刻から着替えを始めた従業員らに対し、労働時間内に着替えを行ったとして、就業規則違反を理由に、不当にも賃金カットを強行した。
 最高裁は「同社での作業服や保護具の着替えは、会社の指揮命令下で行われ、労働時間に含まれる」と判断した。
 作業着への着替えを終業時間外に行なえと強制する会社に対して敢然と闘った全国一般の仲間が最高裁判所で組合全面勝利の判決を得た成果は大きい。
 いま、日本社会ではサービス残業があたり前のように横行しているなかで働くルールを無視する経営者への「警告」であり、長時間労働やサービス残業を強いられている仲間に与える影響は大きい。


最高裁判所第一小法廷・判決全文

[1]  

判例: 平成12年3月9日 第一小法廷判決 平成七年(オ)第二〇二九号 賃金請求事件
要旨: 労働者が始業時刻前及び終業時刻後の作業服及び保護具の着脱等に要した時間が労働基準法上の労働時間に該当するとされた事例
内容: 件名:賃金請求事件(最高裁判所平成七年(オ)第二〇二九号平成12年3月9日第一小法廷判決、棄却)
原審: 福岡高等裁判所
主文: 本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由: 上告代理人植松宏嘉の上告理由及び上告代理人古賀野茂見、同木村憲正の上告理由について
 労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。
 そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行 うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認 められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。
原審の確定したところによれば
(一)  昭和四八年六月当時、被上告人ら(被上告人栗原精子の関係においては、以下、同被上告人訴訟被承継人栗原源三郎のことを被上告人という。)は、上告人に雇用され、長崎造船所において就業していた、
(二)  右当時、上告人の長崎造船所の就業規則は、被上告人らの所属する一般部門の労働時間を午前八時から正午まで及び午後一時から午後五時まで、休憩時間を正午から午後一時までと定めるとともに、始終業基準として、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものと定め、さらに、始終業の勤怠把握基準として、始終業の勤怠は、更衣を済ませ始業時に体操をすべく所定の場所にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準として判断する旨定めていた、
(三)  右当時、被上告人らは、上告人から、実作業に当たり、作業服のほか所定の保護具、工具等(以下「保護具等」という。)の装着を義務付けられ、右装着を所定の更衣所又は控所等(以下「更衣所等」という。)において行うものとされており、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりし、また、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があった、
(四)  右当時、被上告人らのうち造船現場作業に従事していた者は、上告人により、材料庫等からの副資材や消耗品等の受出しを午前ないし午後の始業時刻前に行うことを義務付けられており、また、被上告人らのうち鋳物関係の作業に従事していた者は、粉じんが立つのを防止するため、上長の指示により、午前の始業時刻前に月数回散水をすることを義務付けられていた、
(五)  被上告人らは、昭和四八年六月一日から同月三〇日までの間、
(1)午前の始業時刻前に更衣所等において作業服及び保護具等を装着して準備体操場まで移動し、
(2)午前ないし午後の始業時刻前に副資材や消耗品等の受出しをし、また、午前の始業時刻前に散水を行い、
(3)午後の終業時刻後に作業場又は実施基準線(上告人が屋外造船現場作業者に対し他の作業者との均衡を図るべく終業時刻にその線を通過することを認めていた線)から更衣所等まで移動して作業服及び保護具等の脱離等を行った、というのであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。
 右事実関係によれば、被上告人らは、上告人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられ、また、右装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされていたというのであるから、右装着及び更衣所等から準備体操場までの移動は、上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。また、被上告人らの副資材等の受出し及び散水も同様である。さらに、被上告人らは、実作業の終了後も、更衣所等において作業服及び保護具等の脱離等を終えるまでは、いまだ上告人の指揮命令下に置かれているものと評価することができる。
 そして、各被上告人が右二(五)(1)ないし(3)の各行為に要した時間が社会通念上必要と認められるとして労働基準法上の労働時間に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 /裁判官 小野幹雄 /裁判官 井嶋一友 /裁判官 藤井正雄 /裁判官 大出峻郎)


[2]              

判例: 平成12年3月9日 第一小法廷判決 平成七年(オ)第二〇三〇号 賃金請求事件
要旨: 労働者が始業時刻前及び終業時刻後の所定の入退場門と更衣所等との間の移動、終業時刻後の洗身等、休憩時間中の作業服及び保護具の一部の着脱等に要した時間が労働基準法上の労働時間に該当しないとされた事例
内容: 件名:賃金請求事件(最高裁判所平成七年(オ)第二〇三〇号平成一二年三月九日第一小法廷判決、棄却)
原審: 福岡高等裁判所
主文: 本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由: 上告代理人松本健男、同在間秀和、同竹下政行、同中島光孝、同鈴木宏一、同仙谷由人、同有馬毅、同美奈川成章の上告理由第一について
労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。
原審の確定したところによれば、
(一) 昭和四八年六月当時、上告人ら(上告人栗原精子の関係においては、以下、同上告人訴訟被承継人栗原源三郎のことを上告人という。)は、被上告人に雇用され、長崎造船所において就業していた、
(二) 右当時、被上告人の長崎造船所の就業規則は、上告人らの所属する一般部門の労働時間を午前八時から正午まで及び午後一時から午後五時まで、休憩時間を正午から午後一時までと定めるとともに、始終業基準として、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始し、午前の終業については所定の終業時刻に実作業を中止し、午後の始業に間に合うよう作業場に到着し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものと定め、さらに、始終業の勤怠把握基準として、始終業の勤怠は、更衣を済ませ始業時に体操をすべく所定の場所にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準として判断する旨定めていた、
(三) 右当時、上告人らは、被上告人から、実作業に当たり、作業服のほか所定の保護具、工具等(以下「保護具等」という。)の装着を義務付けられ、右装着を所定の更衣所又は控所等(以下「更衣所等」という。)において行うものとされており、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりし、また、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があった、
(四) 上告人らは、昭和四八年六月一日から同月三〇日までの間、
(1)午前の始業時刻前に、
  1 所定の入退場門から事業所内に入って更衣所等まで移動し、
  2 更衣所等において作業服及び保護具等を装着して準備体操場まで移動し、
(2)午前の終業時刻後に作業場又は実施基準線(被上告人が屋外造船現場作業者に対し他の作業者との均衡を図るべく終業時刻にその線を通過することを認めていた線)から食堂等まで移動し、また、現場控所等において作業服及び保護具等の一部を脱離するなどし、
(3)午後の始業時刻前に食堂等から作業場又は準備体操場まで移動し、また、脱離した作業服及び保護具等を再び装着し、
(4)午後の終業時刻後に、
  1 作業場又は実施基準線から更衣所等まで移動して作業服及び保護具等を脱離し、
  2 手洗い、洗面、洗身、入浴を行い、また、洗身、入浴後に通勤服を着用し、
  3 更衣所等から右入退場門まで移動して事業所外に退出した、
(五) 上告人らは、被上告人から、実作業の終了後に事業所内の施設において洗身を行うことを義務付けられてはおらず、また、特に洗身をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかった、というのであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。
右事実関係によれば、右二(四)(1)1及び(4)3の各移動は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができないから、各上告人が右各移動に要した時間は、いずれも労働基準法上の労働時間に該当しない。また、上告人らは、被上告人から、実作業の終了後に事業所内の施設において洗身等を行うことを義務付けられてはおらず、特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかったというのであるから、上告人らの洗身等は、これに引き続いてされた通勤服の着用を含めて、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができず、各上告人が右二(四)(4)2の洗身等に要した時間は、労働基準法上の労働時間に 該当しないというべきである。
他方、上告人らは、被上告人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられていたなどというのであるから、右二(四)(1)2及び(4)1の作業服及び保護具等の着脱等は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、右着脱等に要する時間は、それが社会通念上必要と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当するというべきである。しかしながら、上告人らの休憩時間中における作業服及び保護具等の一部の着脱等については、使用者は、休憩時間中、労働者を就業を命じた業務から解放して社会通念上休憩時間を自由に利用できる状態に置けば足りるものと解されるから、右着脱等に要する時間は、特段の 事情のない限り、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえず、各上告人が右二(四)(2)及び(3)の各行為に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえない。以上と同旨の原審の判断は、是認するに足りる。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同第二について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、所論引用の各判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 /裁判官 小野幹雄 /裁判官 井嶋一友 /裁判官 藤井正雄 /裁判官 大出峻郎)

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